浦和地方裁判所 平成8年(行ウ)23号 判決 1998年12月21日
原告
森本祐正(X) ほか三名
被告(川口市長)
永瀬洋治(Y1)
(広報広聴課長)
池田建次(Y2)
右訴訟代理人弁護士
石津廣司
主文
一 本件訴えのうち、被告池田建次に対し、平成七年度全市合同特別町会長会議の昼食代の支出による損害賠償金七三万八三〇四円及びその遅延損害金を埼玉県川口市に支払うことを求める請求に係る部分の訴えを却下する。
二 被告永瀬洋治は、埼玉県川口市に対し、金七〇七万四九二四円及びこれに対する平成八年九月七日から完済まで年五分の割合による金員(なお、内金六七〇万七四二〇円及びこれに対する平成八年九月八日から完済まで年五分の割合による金員については、被告池田建次と連帯して)を支払え。
三 被告池田建次は、被告永瀬洋治と連帯して、埼玉県川口市に対し、金六七〇万七四二〇円及びこれに対する平成八年九月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告らは、各自、埼玉県川口市に対し金七六三万八八〇四円及びこれに対する被告永瀬洋治については平成八年九月七日から、被告池田建次については平成八年九月八日からそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
二 被告ら
1 本案前の答弁
主文一と同旨
2 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、埼玉県川口市(以下「川口市」という。)の住民である。
(二) 平成七年七月当時、被告永瀬洋治(以下「被告永瀬」という。)は川口市長の、被告池田建次(以下「被告池田」という。)は川口市広報広聴課長の職にあった。
2 本件公金の支出
(一) 川口市は、平成七年七月一〇日、一一日の両日、静岡県焼津市(以下「焼津市」という。)浜当目海岸通り星が丘所在の焼津温泉ホテルアンビア松風閣(以下「松風閣」という。)において、川口市内の町会長及び町会役員らを招いて、「平成七年度全市合同特別町会長会議」(以下「本件会議」という。)を実施した。
本件会議の出席者は、川口市内の一六四町会の町会長・町会役員合わせて二一二名、川口市側から川口市長、川口市議会議長及び川口市職員一五名であり、合計すると二二九名であった。
(二) 川口市は、本件会議開催のために広報広聴費七六三万八八〇四円、議会費七万二六〇〇円をそれぞれ支出した(以下、広報広聴費及び議会費用を一括して「本件会議費用」といい、右広報広聴費を「本件公金」という。)。
3 本件公金の支出の違法性
(一) 本件公金の支出は、社会通念上、本件会議の目的と効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱して支出された違法があり、地方自治法二条一三項、地方財政法四条に違反するものである。
(1) 本件会議は、被告らが公務の根拠と主張する広報広聴活動及びコミュニティづくりの推進を達成することを目的とするのであれば、市の担当職員や資料等が揃った川口市庁舎で行うべきであり、県外に出向いて一泊旅行を行う必要性は全くない。ちなみに、全市合同特別町会長会議は、本件のほかにも年三回実施されているが、本件会議以外の会議は市庁舎等の市内の公共施設で行われている。
(2) 本件会議は、川口市が進めている重要事業の概要についての説明及び将来の街づくりのための協力要請、防災に関し、阪神・淡路大震災後の被災地への川口市としての対応についての説明、「第一七回たたら祭り」、青少年「愛のひと声・あいさつ運動」、「平成七年度川口市総合防災訓練」の実施内容説明、参加要請、協力要請や平成七年度六月補正予算の概算の説明等がされた後、引き続いて川口市コミュニティづくり推進協議会が行われたとされているが、わずか一時間で終了しており、このような短時間で右のような内容の議題について十分な議事を行うことは事実上不可能であるから、本件会議は会議を軽視した形だけの仮装された会議であり、本件公金の支出を行うための便宜的・名目的なものにすぎない。
(3) しかも、本件会議が、県外の温泉地の豪華レジャーホテルで実施されたこと、平成七年七月一〇日午前七時すぎから同月一一日午後五時三〇分ころまでの全日程のうち、会議が行われたのは約一時間しかなく、その余の大半は、本件会議の内容等と何ら関係のない静岡県清水市三保二三八九番地所在の東海大学社会教育センター(以下「社会教育センター」という。)、静岡県焼津市所在の焼津さかなセンター(以下「さかなセンター」という。)を見学したり、さらに山梨県東八代郡一宮町所在の桃園で桃狩りを行ったりしていること及び本件会議終了後の平成七年七月一〇日午後六時から午後七時三〇分ころまで松風閣で懇親会を実施したことなどからすると、本件会議は、実質的には町内会長らの慰労を目的としたいわゆる慰安旅行である。
(二) 地方自治法二〇七条は、私人に対し、旅費を支給できる場合を、参考人、関係人に対してこれを支給する場合に限定しているが、町会長及び町会役員は、参考人、関係人のいずれにも該当しない。加えて、川口市職員の旅費に関する条例(以下「本件条例」という。)三条二項は、職員以外の者が、市の機関の依頼または要求に応じ、公務の遂行を補助するために旅行した場合には、その者に対し旅費を支給すると定めているところ、本件会議は、任意団体である町内会の会長等との会議にすぎず、公務ではないから、本件公金の支出はこの点からも違法である。
また、町会長、町会役員らに対する旅費の支出は、会議を仮装した旅行に対する支給であり、しかも、右支給に当たっては、本件条例の定める出張命令簿等の作成、記載もなく、その他所定の支給手続に従っていない疑いもあり、違法な支給であるといわざるを得ない。
(三) 被告永瀬は、本件公金の支出が行われた当時、川口市長として四期目を迎えていたが、前回市長選挙の前である少なくとも五年前から毎年一回本件と同様の県外への一泊旅行を行っていた。右の事実からすれば、被告永瀬は、本件公金の支出により、市長選挙に多大な影響のある町会の八八パーセントにあたる一六四町会の役員に対し、一人三万円を超える利益供与をしたと評価できるから、本件公金の支出は公職選挙法二二一条に違反し、違法である。
(四) 被告らの答弁書によれば、本件公金のうち、バス代及び資料作成代等として二六〇万二六二四円が支出されているが、右金額のうち、自動車借上料一六七万二七四〇円及び会議資料代六万七九八〇円を差し引いた残額八六万一九〇四円は、その使途が明らかでない。右使途不明金は、いわゆる裏金として、町会長、町会役員に支給されたものである。
4 被告らの責任
被告らは、本件公金の支出が前記3のとおり違法なものであることを知りながら又は重大な過失によりこれを知らずに、被告永瀬は、川口市長として本件公金の支出に関する支出負担行為を、被告池田は、川口市広報広聴課長として本件公金の支出に関する支出命令を行ったものであるから、被告らは、それぞれ本件公金の支出につき川口市に対する損害賠償責任を負う。
5 川口市は、被告らの違法な本件公金の支出により、七六三万八八〇四円相当の損害を被った。
6 原告らは、平成八年五月二九日、川口市監査委員に対し、本件会議のうち本件公金の支出について、これが違法であるとして、本件公金相当額の損害賠償を求める旨の監査請求を行ったが、同監査委員は、平成八年七月二五日付けで右監査請求を棄却する旨の監査結果を通知した。
7 よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、川口市に代位して、被告らに対し、それぞれ本件会議費用のうち広報広聴費として支出された本件公金七六三万八八〇四円及びこれに対するいずれも訴状送達の日の翌日である、被告永瀬洋治については平成八年九月七日から、被告池田建次については平成八年九月八日から、各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を川口市に対して支払うよう求める。
二 本案前の被告池田の主張
地方自治法上、支出負担行為及び支出命令は、長の権限とされているが、川口市においては、川口市事務決裁規程(以下「本件規程」という。)により、市長の権限に属する事務の一部を助役、部長、課長等の補助職員の専決とする旨を定めている。本件規程によると、需用費のうち食料費については、一件二〇万円を超えるものは助役の専決と定められているところ、本件会議費用のうち需用費昼食代(以下「本件昼食代」という。)として、後記のとおり第一日目に三七万〇八〇〇円が、第二日目に三六万七五〇四円がそれぞれ支出されたが、右支出については、助役が、本件規程に基づいてその支出負担行為及び支出命令を行った。したがって、本件公金のうち本件昼食代に係る部分については、被告池田の権限に属する事務ではないから、同人は、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当しないので、同人に対する本件訴えのうち右部分に係る訴えは不適法である(なお、被告池田は、答弁書において本件公金の支出全部について支出命令をしたことを認めたが、その後この自白は、真実に反しかつ錯誤に基づくものであったとして、撤回した。)。
三 本案前の被告池田の主張に対する原告らの反論
被告池田は、当初本件公金全額につき支出命令を行ったことを認め、これを自白していたにもかかわらず、これを撤回したが、原告らは、この自白の撤回に異議がある。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は、認める。
2 請求原因2の事実は、認める。
川口市が、本件会議を開催するについて、広報広聴費として支出した本件公金の内訳は、次のとおりである。
(一) 旅費
(1) 町会長、町会役員分
四七〇万六四〇〇円(一人当たり、日当合計六四〇〇円(一日につき三二〇〇円)、宿泊料一万五八〇〇円の合計二万二二〇〇円の二一二名分)
(2) 川口市長分
四万一一八〇円(日当合計七二〇〇円(一日につき三六〇〇円)、宿泊料一万七〇〇〇円、鉄道賃一万六九八〇円)
(3) 川口市職員分
二八万八六〇〇円(一人当たり、日当合計六四〇〇円(一日につき三二〇〇円)、宿泊料一万五八〇〇円の合計二万二二〇〇円の一三名分)
(二) 需用費
(1) 昼食代
一日目 三七万〇八〇〇円(一人当たり一六四八円の二二五名分)
二日目 三六万七五〇四円(一人当たり一六四八円の二二三名分)
(2) 会議資料代
六万七九八〇円
(三) 使用料及び賃借料
(1) 自動車借上代
一六七万二七四〇円(一台当たり二七万八七九〇円の六台分)
(2) 会場等借上料
一二万三六〇〇円
3 同3の(一)ないし(四)の各主張は、いずれも争う。
4 同4の主張は、争う。宿泊を伴った町会長会議は、昭和四〇年代前半から実施されているが、かつてこれが問題とされたことはないし、町会長会議の目的等にかんがみると、これを実施する十分な合理的な根拠があるから、被告らが本件会議について本件公金の支出を支払したことは相当であり、被告らには故意も過失もない。
5 同5の事実は、否認する。
6 同6の事実は、認める。
五 被告らの主張
1 町会長会議の必要性
町会は、純粋に私的な寄合ではなく、住民福祉の向上を目的とし、地域住民により構成された公共的な色彩を有する団体であり、川口市の委託により毎月一回発行される川口市広報の配布のほか、川口市と協力して集団資源回収、害虫防除、道路や公園の清掃等の環境・衛生活動、自主防災組織の結成等の防災活動、交通安全活動、青少年の健全育成活動、スポーツ・文化活動等の公益活動を行っているほか、行政への陳情及び要望活動を行っている。
このような町会の公益性及び市政における重要性に照らせば、川口市が、街づくりを進めるうえで必要な地域の情報や市政に関する様々な情報、意見を、聴取したり、全市的な課題や各地域共通の課題について、町会長及び町会役員に協力を求めるために、川口市と町会の間や町会長、町会役員相互間の交流・情報交換を深めるに必要な会議を開催することは、各種行政情報を広く住民に知らせ、住民の声を直接受け又は相談に応ずる広報広聴事務の一環であるということができる。川口市は、このような目的を実現するために、町会長会議を開催し、町会長及び町会役員との間の連絡を図ってきた。
2 町会長会議を宿泊を伴って実施する必要性
町会長会議は、市の公共施設等で開催しても、前記広報広聴事務の目的を一定程度達成できるが、日ごろあまり交流のない他の町会長らが相互理解した上で率直な意見表明をするためには、胸襟を開いたくつろいだ雰囲気の中で会議を行い、また、他の町会長らとの相互理解や懇親を深める機会を持ちたいとの希望が、川口市及び町会双方にあったことから、川口市は、昭和四〇年代前半から、年四回の町会長会議のうち一回を宿泊を伴う全市合同特別町会長会議として実施するようになった。
全市合同特別町会長会議では、公共施設等で行われる会議と比較して形式ばらない雰囲気の中で実施することができるし、懇親会席、宿泊施設内の各部屋及び往復のバス車中において、川口市の職員らと町会長、町会役員との間及び町会長、町会役員相互間の意見交換・情報交換が、胸襟を開き、お互いの交流を深める中で行われ、右の目的をよりよく達成できることから、宿泊を伴う町会長会議を実施することには重要な意義がある。
また、多忙な町会長、町会役員に本件会議に出席してもらったため、川口市は、本件会議に出席した町会長及び町会役員に対し、相応の接遇として、各種見学及び懇親会を行ったもので、普通地方公共団体の長又はその執行機関は、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは許されているところ、懇親会及び各種見学の費用は、旅費からすべて支弁したものであるし、懇親会において酌婦を付けたり、カラオケも用意されていないことから、本件会議は、社会通念を逸脱するものとはいえず、本件公金の支出に違法はない。
六 被告らの主張に対する原告らの認否
1 被告らの主張1は、争う。町会は、あくまで任意団体であって、公私を曖昧にした形で存続しているにすぎない。また、町会長らから要望や意見を聞くことは、公益性を持たない。なぜなら、町会長が地区内の全部の住民から要望、意見を聴くことは、事実上不可能であって、町会長が地区内の全住民の意見を把握できることはあり得ないからである。
2 被告らの主張2は、争う。本件会議は実質的には慰安旅行であるし、バス車中や懇親会などで行われる意見交換は、個人的な雑談の域を出ない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1、2及び6の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず本案前の主張について判断する。
1 本件訴えは、法二四二条の二第一項四号所定の代位住民訴訟の一類型である「当該職員」に対する損害賠償の請求であるところ、右にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者をいい、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当しないと解される。
これを本件についてみると、〔証拠略〕によれば、川口市事務決裁規程四条及び別表第二(以下「本件規定」という。)によると、需用費のうち食料費については、一件二〇万円を超える支出負担行為及び支出命令については、長たる川口市長から助役に対し権限が委任されていることが認められる。そして、〔証拠略〕によれば、本件昼食代については、助役が、本件規程に基づいてその支出負担行為及び支出命令を行ったことが認められる。
2 なお、被告池田は、平成八年一〇月二一日の本件第一回口頭弁論期日において、本件公金の支出の支出命令を行ったことを自白したが、その後、平成一〇年六月一五日の本件第一〇回口頭弁論期日において、錯誤に基づく自白であるとしてこれを撤回した。原告らは、右自自の撤回には異議があると主張するので、この点について検討するに、右1のとおり、需用費のうち食料費については、一件二〇万円を超える支出負担行為及び支出命令については、川口市長から助役に対し権限が委任され、助役の専決とされており、本件昼食代は、助役が、本件規定に基づいて、その支出負担行為及び支出命令を行ったのであるから、被告池田の自自が真実に反することは明らかである。したがって、被告池田の前記自白は、錯誤に基づくものと認められ、被告池田が、原告らの主張が真実に反することを知りながら、あえて右主張を認める旨の自白をしたという特段の事情を認めるに足りる証拠も存しないから、被告池田の右自白の撤回は許されるというべきである。
3 右のとおり、本件公金のうち本件昼食代の支出に関する部分については、被告池田の権限に属する事務ではないから、原告らの本件訴えのうち、被告池田に対し、本件昼食代の支出による損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める請求に係る部分は、不適法であって、却下を免れない。
三 請求原因3(本件公金の支出の違法性)について
1 〔証拠略〕によれば、次の各事実が認められる。
(一) 川口市においては、平成七年度当時、一八六の町会が組織され、川口市の住民の約八割が、いずれかの町会に加入していた。右町会は、いわゆる法人格なき社団であって、川口市の正式の下部組織ではなかった。
町会の組織及び具体的活動状況は、原告村松幹雄が居住する地域の町会である東内野町会を例にとってみると、会長、副会長等の各役員の下、総務、環境衛生、体育、広報、福祉、防災の各部がおかれ、議決機関としての総会が年一回開催され、毎年各部所管の文化祭、害虫等の駆除、道路、排水溝等の町内一斉清掃、粗大ごみや資源ごみの回収、市役所、警察、消防署、公民館等からの回覧文書の回覧ないし配布、ソフトボール大会、歳末助け合い等の募金事業、防災訓練の実施ないし川口市の行う防災訓練への参加、各種行事の際の交通整理等の行事ないし事業を実施している。
東内野町会以外の各町会も、その組織及び活動状況は右とほぼ同様であり、これに加えて、照明灯、防犯灯の点検、子供会、盆踊り大会等を実施している町会もある。
川口市は、各町会に対し、川口市が発行する川口市広報の配布を依頼しているほか、粗大ごみ及び資源ごみを回収するについてのとりまとめ、害虫やねずみの駆除、道路、排水溝等の清掃、合同防災訓練への参加等を依頼し、その協力を得ている。
また、町会は、川口市に対する陳情や要望を伝達する機関としての役割をも持っている。具体的には、道路の補修、公園設備の改修等については、要望のあった町会から直接川口市の担当部局に要望等が提出され、予算を伴う施設の建設、全市的な課題となる大きな政策策定が必要な予算を伴う大きな課題については、後記町会長会議等を通じて要望陳情の形で川口市の担当部局に対して伝達される。その他にも、各地域の日常的な要望や意見は、各町会から要望意見書あるいは陳情書という形で、直接川口市長に提出される。
しかし、町会の活動に対して川口市から報酬等は一切支払われていない。
(二) 川口市は、町会が右のとおり公益的性格を有することから、広報広聴活動の一環として、広く市民の意見、要望を聞き、これを市政に反映させるとともに、市政に関する様々な理解を得るため、町会長及び町会役員らとの間の会議の場として、毎年四回町会長会議を開催してきた。同会議は、当初川口市の公共施設等で開催していたが、公共施設で開催する場合、時間に制約があるために、形式ばった会議になりがちであったことから、時間に制約されずに、寛いだ雰囲気の中で、より緊密な市と町会長、町会役員間の意見交換及び町会長、町会役員同士間の交流の場を持ちたいという要望が、出席者から出されるに至った。
そこで、川口市は、昭和四二年ころ以降、年四回行われる町会長会議のうち一回を、全市合同特別町会長会議として、宿泊を伴う形で実施するようになった。
(三) 本件会議は、川口市内の一八六の町会のうち、一六四の町会から町会長と町会役員をあわせて二一二名が参加し、川口市からは、被告永瀬、加藤善太郎市長室長(以下「加藤市長室長」という。)、川口市内に存する五か所の支所の各支所長、被告池田をはじめ広報広聴課職員七名、川口市議会事務局の議長及び事務局職員二名の合計一七名が参加し、平成七年七月一〇日、一一日の二日間にわたって実施された。
(四) 被告永瀬を除く本件会議の参加者は、平成七年七月一〇日午前七時一〇分ないし四五分、各集合場所からバスに分乗して川口市を出発し、同日午後零時二〇分から午後一時までの間、静岡県日本平において昼食をとり、同日午後一時二〇分から午後二時までの間、社会教育センターを見学した。
(五) 本件会議の参加者らは、同日午後三時、松風閣に到着し、右到着後直ちに松風閣三階のコンベンションホール「富士」に参集し、本件会議が開始された。本件会議の内容は、席上配布された平成七年度全市合同特別町会長会議、川口市コミュニティづくり推進協議会総会と題する冊子に明らかであるが、その詳細は以下のとおりであった。
まず、被告永瀬から、日ごろの活動に対する感謝の言葉に次いで、川口市における市政の重要事項、平成七年度六月議会における阪神・淡路大震災に関する議論と市の対応策に関する論議と市の対応等の概略、町会の役割の重要性の説明、更に今後とも市政全般、特に防災対策に関する町会の協力を求める旨のあいさつがあり、次に、川口市議会議長が阪神・淡路大震災に触れた挨拶をし、次いで、横曽根地区の連合町会長が座長に選出され、本件会議の議事に入り、まず、加藤市長室長から、<1>第一七回たたら祭りの開催目的、会場等に関する説明とその参加要請、<2>青少年「愛のひと声・あいさつ運動」の実施についての内容説明と協力要請、<3>平成七年度六月議会において可決された補正予算の概略説明、特に耐震性貯水槽設置、災害用非常食糧購入、非常時持出袋用各戸配布ステッカー作成などの震災対策関係事業に関する説明、<4>平成七年度川口市総合防災訓練実施概要の説明と各町会に対する協力要請が行われた。その後、座長から右説明に対する質疑が求められたが、何らの質問も出なかった。そこで、最後に、被告永瀬は、出席した町会長、町会役員に対し、川口市からの連絡・説明事項を各町会に持ち帰り、報告して、今後の町会活動に生かしてもらうよう要請し、また防災訓練をはじめとする川口市の施策への理解、協力を依頼して、同日午後三時五〇分ころ、本件会議を終了し、引き続き、平成七年度川口市コミュニティづくり推進協議会総会に移り、同協議会事務局である広報広聴課の課長として、被告池田が平成六年度川口市コミュニティづくり推進協議会事業報告及び収支決算を説明し、監事が平成六年度川口市コミュニテイづくり推進協議会監査報告をして、その承認を受けた。次に、被告池田は、平成七年度川口市コミュニティづくり推進協議会事業計画案及び収支予算案を説明して、その承認を受け、同総会は、同日午後四時ころ終了した。
(六) 平成七年七月一〇日午後六時ころから、松風閣三階大宴会場「松風の間」において、懇親会が行われた。川口市側から、右懇親会の開会に当たり、町会長らの日ごろの協力に対する感謝が表され、本件会議の参加者らによる懇談が行われたが、その席上、町会長らと川口市との間で、合同訓練のあり方、川口市からの依頼文書の配布の効率化、川口市が施工する工事等について町会あるいは住民に対する説明のあり方、町会未加入者に対する加入促進の方策等について意見や情報の交換が行われ、同日午後七時三〇分ころ終了した。右懇親会終了後も、参加者らの各宿泊の部屋において、川口市の職員らも参加して、新旧住民の融和、町会役員になり手がない等町会長としての苦労話が話し合われた。右懇親会には酒食が用意されたが、芸者、コンパニオン、酌婦は一切つかず、カラオケ等の用意もなかった。
(七) 本件会議の参加者は、平成七年七月一一日午前九時ころ、再びバスに分乗して松風閣を出発し、同日午前九時一〇分から九時五〇分までの間、さかなセンターを見学して、河口湖まで移動し、同日午後零時一五分から午後一時まで昼食をとり、同日午後一時四〇分から午後二時三〇分まで山梨県東八代郡一宮町所在の桃園において、桃狩りを行った。右昼食代は、本件における広報広聴費から支出されたが、さかなセンター、桃園におけるおみやげ等については、本件会議の参加者が自費で購入し、川口市においてこれを負担したことはなかった。
その後、川口市内までバスで移動し、同日午後五時三〇分に解散したが、右復路の車中においても、町会長、町会役員同士の意見交換が行われた。
(八) 本件会議に出席した川口市職員らは、帰庁後、前記懇親会等の席上で、町会長及び町会役員から川口市に対して出された各種の意見、要望を取りまとめ、その実現方について各部局内において検討した結果、町会に配布する文書については、原則として、緊急かつ重要な内容で全戸配布しないもの、緊急かつ重要な内容で広報紙に掲載しないもの及び報告、募金等町会に取りまとめを依頼するものに限定することが実行に移された。
(九) 川口市は、平成七年七月六日、町内会長及び町会役員に対し、本件公金のうち宿泊料及び日当を資金前渡の方法で、その他の費用を通常の方法でそれぞれ支出した。
(一〇) 本件会議の後に行われた川口市長選挙は、平成九年五月一八日に告示されたが、被告永瀬は、右市長選挙には立候補しなかった。
2 そこで、右認定の事実に基づき、本件公金の支出について判断する。
(一) 一般に、地方公共団体が、広報広聴活動の一環として、地域住民の意見・要望を広く聴き、これを市政の運営に反映させ、また、地域住民に対し市政への理解と協力を求める目的で会議を開催することは、当該地方公共団体の職務と関連性を有するものとして是認されることは明らかである。本件における川口市の町内会は、川口市の全住民の約八割から構成された、いわゆる法人格のない団体であって、市の行政と密接なつながりのある道路、排水溝等の清掃、祭礼、レクリエーション活動、防犯・防火活動、ごみ処理等の保健衛生活動、地域内の広報活動、募金への協力、行政連絡の伝達、行政への陳情及び要望を行い、これらの活動によって、川口市の行政活動を事実上補完し、末端の行政サービスに貢献してきたと認められ、川口市がその事務を遂行する上で、町会の果たしている右役割にかんがみると、川口市が町会長会議を開催し、市の行政情報の提供や、市の行政活動に対する協力等の要請を行い、市政に対する地域住民らの要望や意見を聴くことは、円滑な市政に対する理解を深めてもらうために必要かつ相当であり、広報広聴活動の一環として有意性があると認められる。
(二) 原告は、本件会議が県外において一泊旅行として行われたことなどの理由から、本件公金の支出が違法であると主張する。
前記認定のとおり、川口市は、昭和四二年ころから、胸襟を開いた雰囲気の中で市と町会長ら同士の交流を深めつつ、踏み込んだ意見交換や情報交換をする機会を持つことには大きな意義があるということで、年四回開催している町会長会議のうち一回を宿泊を伴う全市合同特別町会長会議として、毎年七月に実施していたこと、本件会議も、平成七年度全市合同特別町会長会議として、焼津市所在の松風閣で同年七月一〇日及び一一日の両日にわたって開催されたこと、本件会議は、川口市からは市長、市議会議長らが出席し、また、川口市の町会のほぼ九割に当たる町会長が出席して開催され、本件会議の内容も、川口市が行う諸行事の実施内容や阪神・淡路大震災を契機とした川口市の防災対策等の市の重要な施策に関する説明とそれに対する協力要請をするとともに、地域住民らにその周知を図ることの依頼をするというものであるから、川口市の重要な広報広聴活動の一つであると認められ、また、その後の懇親会においても、川口市側と町会長らとの忌たんのない意見交換、町会長から川口市に対する要望等が率直に出され、川口市としても今後の行政施策を実施するに当たって意義のある機会が得られたことが認められる。したがって、本件会議は、川口市が広報広聴活動に関する事務を遂行する過程で、その必要のために開催されたと認められるので、本件会議を開催するために必要な費用を支出することは、是認されるべきであるが、川口市が、公金として支出すべき費用は、本件会議の目的、日程、出席者数などの諸般の事情を総合して、社会通念上、必要かつ相当な範囲に限られるというべきである。
これを本件についてみるに、本件会議は、前示のとおり、平成七年度全市合同特別町会長会議として、川口市が重要な諸施策を実行するために必要な行政情報を地域住民に周知させ、その協力を求めるために、広報広聴活動の一環として開催されたこと、本件会議後の懇親会は、酒食が用意されたが、コンパニオン、カラオケ等の用意はされず、川口市側と町会長らとの忌たんのない意見交換、町会長からの要望等の聴取に終始し、有意のうちに終了したこと、また、本件会議開催のための本件公金の支出は、総額で七六三万八八〇四円であり、これを本件会議出席者一人当たりに換算すると三万三三五七円にとどまり、しかも、懇親会、社会情報センター等の見学、さかなセンター、桃園等において要した費用は、すべて参加者らが自ら負担したものであること、本件公金の支出は、いずれも本件条例等に基づき、予算的措置に従って支出されたことが認められる。しかしながら、本件会議は、川口市から川口市が借り上げたバス六台で焼津市まで出かけ、一泊二日にわたって行われたが、その内容は、川口市からの諸行事及び防災対策に関する説明と協力要請、地域住民に対する右事項の周知方の依頼に終始し、質疑の機会が設けられたが、それも川口市からの右説明等に対するもので、格別の質疑のないまま、一時間足らずで終了し、議事録作成も行われなかったこと、しかも、川口市からの右説明の内容は、本件会議の席上で配布された「平成七年度全市合同特別町会長会議(川口市コミュニティづくり推進協議会総会)」と題する冊子に記載されており、これにしたがって行われ、加えて、本件会議の往路及び復路を利用して実施された社会教育センター、さかなセンター、桃園の見学等は、町会長、町会役員らに対する接遇として実施されたものであること(〔証拠略〕)に照らすと、本件会議は、川口市がその事務を遂行する必要上開催したもので、もっぱら町会長らと川口市側の慰労、懇親を目的としたものではなく、川口市が、右慰労、接遇に関する諸費用を直接負担していないとしても、右のとおり懇親会を行い、接遇を目的とした諸施設の見学等が実施されたことや本件会議の内容、態様、会議に要した時間、費用の総額等の諸事情をあわせ考えると、町会長及び町会役員に対する慰労、接遇を目的として、焼津市所在の松風閣に出かけて本件会議を開催したとみられてもやむを得ないところであり、右慰労、接遇も、社会的儀礼の範囲にとどまる態様、内容のものであるとは認め難く、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。したがって、本件会議をあえて川口市から遠隔の地である焼津市において宿泊形式で行われなければならないとする合理的な理由は乏しく、その必要性を認めることもできない。
右のとおりであるから、本件会議に要した費用のうち、川口市、焼津市間の往復のための費用、宿泊のための費用その他これに関する費用等については、これを川口市の公金から支出することが許されるものでないことは、明らかであるというべきであり、被告らが、右諸費用に関する部分を支払うために本件公金を支出したことは、予算の執行上の裁量権を逸脱したものとして、違法であるといわなければならない。
(三) 次に、本件公金の支出の当否について、検討する。
(1) 〔証拠略〕によると、川口市は、本件条例に基づいて、本件会議費用のうち旅費として、町会長、町会役員分合計四七〇万六四〇〇円(一人当たり、日当合計六四〇〇円(一日につき三二〇〇円)、宿泊料一万五八〇〇円の合計二万二二〇〇円)を、市長分合計四万一一八〇円(日当合計七二〇〇円(一日につき三六〇〇円)、宿泊料一万七〇〇〇円、鉄道賃一万六九八〇円)を、また、川口市職員分合計二八万八六〇〇円(一人当たり、日当として合計六四〇〇円(一日につき三二〇〇円)、宿泊料一万五八〇〇円の合計二万二二〇〇円)をそれぞれ支出したことが認められる。
ところで、公務のために出張する職員等に対し支給する旅費の種類及び支給されるべき旅費の計算の方法等は本件条例に定められているところ、本件条例によると、職員が出張した場合には、当該職員に対し、旅費を支給し(本件条例三条一項)、また、職員以外の者が、市の機関の依頼又は要求に応じ、公務の遂行を補助するために旅行した場合には、その者に対し旅費を支給することが定められている(本杵条例三条二項)。そして、川口市が支給する旅費の種類は、鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、日当、宿泊料及び食卓料とされており(本件条例五条一項ないし八項)、職員以外の者に対しては、用務の内容、支給を受ける者の知識経験及び社会的地位等を考慮して、相当と認める職務の級の職員の出張の例に準じて計算した旅費が支給される(本件条例一九条)。
川口市が、本件公金として支出した旅費のうち日当の額は、一級から五級までの職務にある者は、一日につき三〇〇〇円と、六級から八級までの職務にある者は、一日につき三二〇〇円の定額を支給するとされているが(本件条例一三条一項)、職員が特別職員又は六級以上の職員と同行した場合には、当該職員に対し、右規定にかかわらず、同行した特別職員又は上級職員と同額の旅費を支給する(本件条例一八条)と定められており、川口市は、本件会議に出張した市長を除く市職員一三名に対しては、いずれも川口市が借り上げたバスに同乗して出張したとして、本件条例に従って一日当たり三二〇〇円の日当を支給し、市長に対しては、川口市長等常勤の特別職職員の給与等に関する条例(以下「本件特別職条例」という。)一一条に基づいて一日当たり三六〇〇円の日当及び鉄道賃一万六九八〇円を支給したことが認められる。
そうすると、川口市が支出した本件会議費用のうち右各旅費は、本件会議が川口市から焼津市まで一泊の路程で実施されたとして、本件条例及び本件特別職条例の定めに従って計算され、支給されたものということができる。
したがって、川口市が、町会長、町会役員、川口市職員及び市長に対して支給した右旅費のうち、二日目の日当に相当する分、宿泊料に相当する分、鉄道賃に相当する分として、町会長、町会役員に対して支出された合計四〇二万八〇〇〇円、市長に対して支出された三万七五八〇円、川口市職員に対して支出された合計二四万七〇〇〇円は、いずれも本件会議を焼津市において宿泊形式で開催するために支出されたものとして、違法であるというべきである。
次に、本件会議の開催は、前記説示のとおり、川口市の広報広聴活動として相当であり、違法と認めることはできないから、一日の日当に相当する分の旅費を支出することは違法とはいえない。しかしながら、本件条例一六条は、職員が市内(埼玉県鳩ケ谷市の地域を含む。)に出張した場合には、本件条例五条一項に規定する旅費に代え市内出張旅費を旅費として支給するものとし(本件条例五条九項)、その場合の出張旅費は一日につき三〇〇円を支給すると規定している。そして、右市内出張旅費は、当該出張が三時間以上にわたる場合に限り支給され、出張がバス、電車等の交通機関を利用する場合で、出張命令権者が必要と認める場合には、その実費を支給するが、管理職手当を受ける職員、自動車運転業務に従事する職員及び現業に従事する職員には支給しないが(川口市職員の旅費に関する条例施行規則(以下「本件条例施行規則」という。)一〇条一項、二項、四項)、当分の間、本件条例施行規則一〇条四項の規定にかかわらず、川口市職員の管理職手当に関する規則の一部を改正する規則(平成六年規則第一五号)附則二項に規定する係長管理職手当を受ける職員に市内出張旅費を支給する(本件条例施行規則附則四(平成六年三月三一日規則第一八号により追加))旨が規定されている。
本件会議の開催は、川口市の広報広聴活動の一環として開催されたもので、右開催自体は相当であるが、これを焼津市内において開催する合理性が認められないことは、前示のとおりであり、しかも、本件会議を焼津市以外の場所で、かつ、川口市以外の適当な場所で開催することを相当と認めるべき事由も存しないので、本件会議を開催するに伴って支給されるべき旅費は、結局、市内出張旅費が支給されるのが相当であると認められる。そして、本件会議は、前記認定のとおり、町会長、町会役員ら二一二名の外、市長、市議会議長らも参加して開催されたこと、本件会議自体は、約一時間で終了したが、会議場以外の場において、町会長らによる市に対する要望や意見交換、普段交流のない町会長らが、その連携を深めるため、意見交換等が行われ、右意見交換等に有意性が認められること等にかんがみると、本件会議に伴う出張は三時間以上にわたる場合に該当すると認めるのが相当である。ところで、市内出張旅費は、前記認定のとおり、管理職手当を受ける職員には支給されないところ、川口市の職員のうち管理職手当の支給を受ける職員の範囲は、市長の事務部局における行政職にあっては課長補佐、課長、次長、部長と定められている(川口市職員の管理職手当に関する規則二条一項)。また、本件会議に参加した町会長、町会役員については、六級の職員に相当する日当等が支給されたことに照らすと、川口市は、その知識経験及び社会的地位等を考慮して、六級相当の職務の級にある職員としての接遇をし、右職員の出張の例に準じて計算した旅費を支給することとしたものと認められる。本件会議に出席した川口市の職員のうち六級に相当する職級の職員は課長の地位にあるから(〔証拠略〕)、本件会議に出席した町会長、町会役員は、管理職手当の支給を受ける職員に準じて、市長及び部長、次長、課長並びに課長補佐の地位にある職員とともに、市内出張旅費の支給を受けることができないというべきである。川口市は、職員が市内に出張した場合は、旅費に代えて市内出張旅費を旅費として支給するのであるから、本件会議の開催に伴って支給すべき旅費は、本件会議に参加するために出張した川口市職員のうち管理職手当の支給を受けていない職員五名分の市内出張旅費合計一五〇〇円に限られるというべきである。
以上を総合すると、本件公金のうち旅費については、町会長、町会役員分合計四七〇万六四〇〇円、市長分四万一一八〇円、川口市職員分合計二八万七一〇〇円が、違法な支出である。
(2) 〔証拠略〕によると、川口市は、本件会議の需用費として、一日目昼食代三七万〇八〇〇円、二日目昼食代三六万七五〇四円を支出したことが認められる。ところで、本件会議は、本件会議のうち一日目に開催されたこと、右(1)に判示した本件会議の目的、内容、規模等の諸事情に照らすと、右昼食代のうち一日目の昼食代として支出された分は、本件会議の開催のために相当であり、右昼食代も社会通念あるいは社会的儀礼上相当と認められるが、二日目昼食代相当分は、本件会議を焼津市において宿泊形式で開催するために支出されたものとして、違法である。
(3) また、〔証拠略〕によると、川口市は、本件会議を開催するために自動車六台を借り上げ、使用料及び賃借料として自動車借上料合計一六七万二七四〇円(一台当たり二七万八七九〇円)を支出したことが認められる。右自動車六台は、町会長、町会役員及び川口市職員が、本件会議に出席するために借り上げられたのであるから、自動車借上料の支出は、本件会議を焼津市において宿泊形式で開催するために支出されたものとして、違法である。
(4) 〔証拠略〕によると、川口市は、本件会議費用のうち需用費として会議資料代六万七九八〇円を、使用料及び賃借料として会場借上料一二万三六〇〇円をそれぞれ支出したことが認められる。本件会議の開催は、前示のとおり、川口市の広報広聴活動として相当であり、違法と認めることはできないから、会議資料代の支出は相当であり、また、前記認定のとおり、川口市は、町会長会議を川口市内の施設で行ったことがあること、その他本件会議の目的、態様、出席者数、本件会議の規模、日程等に照らすと、コンベンションホールを借り上げて本件会議を実施したことは、必ずしも社会的相当性を超えたと認めることはできないし、右費用も社会通念を逸脱したものと認めることもできないから、会場借上料を支出したことは違法であると解することはできない。
(四) 原告らは、被告永瀬は、本件公金の支出により、町内会の会長らに対する利益供与を行ったものであるから、公職選挙法二二一条に違反する旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件会議は、川口市長選挙に近接した時期に行われたものではなく、かつ、本件会議が行われた後の川口市長選挙には、被告永瀬は立候補しなかったし、本件会議は、被告永瀬が初めて行ったものではなく、昭和四二年ころから約三〇年間にわたって、毎年行われてきたものであるし、本件全証拠によるも、本件会議において、川口市長選挙に関する協議や協力要請等が行われた経緯は認められないことに照らせば、本件公金の支出(ただし、前記違法な公金支出と認定された部分を除く。)が、被告永瀬による利益供与であると認めることは困難であり、この点の原告らの主張は、理由がない。
(五) さらに、原告らは、本件公金のうち、被告らが答弁書において主張したバス代、会議資料代等二六〇万二六二四円のうち、会議資料代六万七九八〇円及び自動車借上料一六七万二七四〇円を差し引いた残額八六万一九〇四円については、その使途が明らかでないから、被告らにおいて、町会長、町会役員に対して裏金として支給されたものであると主張するが、本件公金の支出の内訳は、右(三)に認定したとおりであって、本件公金の支出には、使途が明らかでない部分は存せず、他に、町会長、町会役員に対して裏金が支給されたと認めるに足りる証拠もないから、この点の原告らの主張は、理由がない。
3 被告らの責任について
被告らが、本件会議を焼津市所在の松風閣で開催するについて、その当否あるいは必要性について具体的な検討を加えるなどわずかの注意をすれば、本件公金の支出の違法性を認識し得たにもかかわらず、昭和四〇年代前半から宿泊形式による全市合同特別町会長会議が開催され、この間、その公金支出に関して問題とされたことがまったくなかったことから、これまでの例に従い、漫然と本件公金を支出したと認められ、被告永瀬は、本件公金の支出負担行為につき、被告池田は、本件公金のうち本件昼食代を除く支出命令をしたことにつき、それぞれ故意又は重大な過失があったというべきである。
以上のとおりであるから、本件公金の支出のうち、旅費については、町会長、町会役員分合計四七〇万六四〇〇円、市長分四万一一八〇円、川口市職員分合計二八万七一〇〇円の支出、本件昼食代のうち二日目相当分合計三六万七五〇四円の支出及び自動車六台借上料合計一六七万二七四〇円の支出は、違法であり、右違法な支出部分が、川口市の損害となる。
三 よって、原告らの本件訴えのうち、被告池田に対し、本件昼食代の支出による損害賠償金及びその遅延損害金を川口市に支払うことを求める部分は不適法であるから、これを却下し、原告らのその余の請求のうち、被告永瀬に対し、金七〇七万四九二四円及びこれに対する平成八年九月七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分並びに被告池田に対し、金六七〇万七四二〇円及びこれに対する平成八年九月八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は、いずれも理由があるので、これを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判断する。
(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 小島浩 鈴木雄輔)